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知的財産の価値評価と、企業におけるディスクロージャー ⇒ 知財価値評価が活きる場面

   

特技懇誌という特許庁が発行している刊行物に寄稿をしました。

このブログを見た編集委員の方から打診頂いたことがきっかけです。嬉しいですね。
実は私も特許庁時代は、特技懇の常任幹事をやって(やらされて)いました。懐かしいなぁ、くそ大変だったなぁなんて思いながら、リクエスト頂いた「知財とお金」というテーマに関して、書かせていただいた次第です。

本編はこちらのページから見られますが、せっかくなのでここにも、すごくざっくり概要のみまとめたバージョンで紹介しておきます。特に目新しいことは書いてないんですけどね。執筆後に若干気が変わったところもあるので、最後に追加のコメントも書いておきます。

 

 

1.はじめに

知財の価値評価について、現在外部活動で色々検討していることもあり、知財価値評価が期待される一つの場面として、企業による知財情報のディスクロージャーにおける知財価値評価について書く。

 

2. 知的財産の重要性と制度会計上の開示


(1) 無形資産の重要性の増加

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無形資産の重要性が叫ばれて久しいが、Ocean Tomoの調査によると、米国において1975年には17%であった企業価値に占める無形資産の割合が、2015年には84%まで増加している。投資家の意思決定において、投資対象企業がどのような無形資産を有するかは非常に重要な情報となっている。

企業価値の、時に半分以上を占めるという無形資産。しかし、企業の財務諸表を見ても、そのような多額な無形資産はそこには表れてこない。

ここでの「無形資産」には知的財産権のほかに、人的資源や顧客基盤、ノウハウやブランド価値などが含まれるが、これらは確かに価値がある資産であるものの、貸借対照表上に計上されることはない。上記のデータは、株式時価総額と長期借入の合計を企業の市場価値総額とみなしたうえで、そこから機械や設備等の有形資産総額を差し引いた残りの部分を無形資産として計算している。

 

(2)制度会計における知的財産の資産計上

それでは、無形資産の中でも特に重要な知的財産、例えば特許権は、制度会計上どのように会計処理されるのか。実は企業が有する特許権は、その取得経路によってBS上の資産計上額が大きく異なることになる。

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自社出願の結果として権利化された特許権については、その多くは費用処理され、ほとんどの企業において資産計上されていない。

つまり、企業にとって重要なはずの特許権であるが、その実質的価値のほとんどはBS上資産計上されていない。僅かに計上されているものも、特許ポートフォリオのうちのごく一部である、他社から取得したものの残価値が残っているに過ぎない。

財務諸表は、株主や債権者といった企業外部の投資家に対し、適切な判断と意思決定を行うために必要な情報を提供するという目的で制度上開示されているのであるが、これでは、投資家の意思決定に有用な情報を開示しているとは言えないだろう。

 

(3)無形資産の市場における評価

また、帝国データバンクの調査によると、日本企業は他国に比べ、無形資産価値形成のために投資は高い金額レベルで実行しているにもかかわらず、株式市場においては無形資産価値として評価されていないことが分かる。
日本企業の無形資産の投資効率が悪いことも考えられるが、無形資産に関して十分なディスクロージャーがされていないことが、市場で評価されていない要因の一つではないだろうか。

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3. 企業における知的資産のディスクロージャー

制度会計上は知的財産の価値が十分に財務諸表等に開示されていないため、制度会計とは別の枠組みにおいて、企業が保有する知的財産の情報開示が期待されることになる。現在、その役割を担い得るのは、「知的財産報告書」と「知的資産経営報告書」、そして統合報告書ということになるであろう。

(1)知的財産報告書

知的財産報告書は、2004年1月に経済産業省から発表された「知的財産情報開示指針」に起因する。
これに応える形で2004年には大企業を中心として14社が知的財産報告書を発行した。

(2)知的資産経営報告書

知的資産経営報告書は、2005年10月に同じく経済産業省から発表された「知的資産経営の開示ガイドライン」が元となっている。
こちらは中小企業を中心に採用されたが、2011年をピークに発行する企業数は減少傾向にある。

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残念ながら、いずれの報告書を見ても、企業がどの程度重要な知的財産を有しているのか、そしてそれがどの程度事業に貢献しているのか把握することは難しい。

 

4. 知的財産の価値評価手法


(1)代表的な価値評価手法

一般的には、主に下記のような手法で知財の価値評価が行われている。

  • コストアプローチ
    • 原価法(ヒストリカル・コスト法)
    • 再構築費用法(リプレイスメント・コスト法)
  • マーケットアプローチ
    • 類似取引比較法
    • オプションモデル(ブラックショールズ等)
  • インカムアプローチ
    • DCF法
    • 免除ロイヤリティ法
    • リアルオプション
    • PatVM

コストアプローチ・マーケットアプローチ・インカムアプローチといった分類は、古くから使われているものであるが、今なお有用。
多くの場合で妥当するだろうと考えられるインカムアプローチに分類され、最も基本的な価値評価手法であろうDCF法について簡単に説明する。


DCF法は、評価対象となる特許による将来キャッシュフローを求め、それを割引率で現在価値に割り引くという計算手法である。

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 こう書くと、非常にシンプルなものに思えるが、「特許による将来キャッシュフロー」をどのように算出するのかという点が、DCF法の根本的に困難な点となる。
典型的には、事業計画に基づき、評価対象の特許に関する事業の将来キャッシュフローを求め、それに特許の寄与度(貢献率)を乗じることで算出されるが、やはりこの「特許の寄与度(貢献率)」をどのような根拠に基づき算出するかという壁にぶつかる。

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 利益三分法や利益四分法(25%ルール)といった、単純化した仮定に基づき導出される25%等の数値をベースとし、個別の事情に基づきそれを上下させる、あるいはさらなる要素を乗ずるという考え方がよく取られている。


 また、DCF法の特許の寄与度という難関を回避すべく、「免除ロイヤリティ法」が採用されることもある。免除ロイヤリティ法とは、仮に自社が保有する特許権を他社が有している場合に支払わなければならないロイヤリティが、自社が特許権を保有することで免除される、その額が特許権の価値に当たるという考え方だ。
 計算式はやはり単純であり、評価対象となる特許がカバーする事業の売上にロイヤリティ率を乗じたものを、特許による将来キャッシュフローとし、それを現在価値に割り引くことになる。

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免除ロイヤリティ法が魅力的なのは、特許の寄与度というある意味仮想的なパラメータを用いることなく、ロイヤリティ率が分かれば計算が可能となる点である。そして、業界ごとのロイヤリティ率は一応の調査がされており 、平均値を導出することもできる。
しかし、そもそも本当に自社のその特許を保有していなかったとしたらライセンス料の支払いが必要となっていたのか、そしてその額をそのまま特許の価値としてよいのかという、仮定の妥当性には疑問が残る。

 

(2)知財価値評価の困難性

上記に代表的な価値評価手法について述べたが、ディスクロージャー目的における具体的な評価手法の論点に入る前に、一般的な知財価値評価の困難性について触れておくこととしたい。
知財価値評価の困難性は、知財の価値が「相対的」であることと、その「換価性の低さ」にあると考える。

特許権は、その保有する主体が誰かによって全く価値が変動する。またその活用手法や保有目的というものも大きく価値に影響を与える。絶対的な価値というものは多くの場合存在せず、特許権の価値はあくまで相対的なものであるといえる。だからこそ、価値評価を行う際には、その価値評価の目的と予定される特許権の活用目的をはっきりさせる必要がある。
そして、そのように算出された価値には、多くの場合において換価性がない。つまり、特許権保有者にとっては10億円の価値があると算出されたとしても、それを10億円で購入しようとする者がいることを保証するものでは全くない。その換価性の低さによって、特許権の流動性や、担保投資等の活用の幅が制限される。

したがって、知財の価値評価を行う際には、まず前提となる考え方を明確にする必要がある。どのような目的で価値評価を行うのか、知財を今後どのように活用すると仮定した上での価値なのか、そしてそれが誰にとっての価値なのか、これらが明確にならなければ、単に典型的な計算式を当てはめただけになってしまい、適当な評価を行うことが困難となる。

さらにいうと、事業と知的財産との不可分性、また知的財産と知的財産「権」の不可分性も、価値評価の難しさに影響を与える。今評価しようとしているものが、あくまで権利としての知的財産権のみなのか、ノウハウ等の実体も含めた知的財産なのか、最初に明確化する必要がある。

 

(3)ディスクロージャー目的の場合の具体的な評価と注意点

~ここは細かいので割愛~

 

5.おわりに

繰り返しになるが、特許権の価値はその使われ方によって大きく変動する相対的なものである。したがって、そもそもディスクロージャーを目的とした知財の価値評価自体困難であり、算出された数値がどれだけ投資家にとって有益なものかは判断が難しい。

しかし、ここで重要なのは情報の「比較可能性」であろうと考える。つまり、それ自体が相対的な数値であったとしても、経年での比較、他企業との比較が可能となれば、情報としての価値がある。その意味では、共通ルールによる価値の算出手法や、信頼できる価値評価者のスキームを構築することが重要となると考える。また、価値評価の前提となる、特許がどのように事業に貢献しているかという背景部分こそが重要でもあり、評価ができる程度にその点が具体化されることが肝要な点とも言えるだろう。

 

 

追加のコメント・感想

ちょうど色々と検討中だったこともあって、情報開示(ディスクロージャー)目的の知財価値評価について書いてみましたが、実際のところ、単に「保有する知財の価値を評価したい」というふんわりした場面では、合理的な価値評価は難しいというのが現在の私の結論です。

というのは、結局のところ大きく値に影響を与える寄与度等のパラメータを合理的に決める根拠が無いためです。

情報の比較可能性というのが唯一の拠り所になるように感じますが、それだったら評価スキームをどう構築するかより、いっそ機械的な評価(YK値など)にまで振り切ってしまってもいいくらいかもしれません。

これは、融資目的で企業が保有する知財について評価する、といった場面でも同様だろうと思います。本稿中でも書きましたが、価値評価を行うに当たっては、保有する知財をどのように使うのか、知財からどうやってキャッシュが生み出されるのか、知財が事業にどのように活用されるのかといった具体的な計画が必要とされます。

将来の(評価対象物である特許による)キャッシュフロー計画が分からなければ価値の評価ができないというのは、知財に限らず、資産の価値評価を行うにあたって当然のこと。

とりあえず権利は持ってます、自社の事業の一部はカバーされていますが、競合企業が実施しているわけではないです、ライセンスもしていません、この権利っていくらですか?という状況だと、そりゃ合理的な価値評価はできないですよね。


したがって、特段の目的のない、ふんわりとした保有特許の価値評価とか、融資目的での保有知財の価値評価に際しては、あまり将来性を見いだせていません。

(融資判断のために、「事業評価」を行うに当たって、保有知財がどのように事業に好影響を与えるかという定性的評価はもちろん意味があります。
しかし、そこから、保有知財権のみ抜き出して、その金銭価値がいくらかという根付け評価をすることには、あまり意味がなさそうという意味です)



また、M&A目的でのターゲット企業の知財価値評価という場面も、同様です。

DDの一環として、どういう権利を持っているのか、知財リスクが無いのかといった調査をすることは重要です。また、事業評価を行う一つの要素として、事業を有利にする知財・知財権を持っているかを定性的に評価することも重要です。これが定量的な中計に落ちるはずだと思います。


しかし、知財(知財権)のみを分離して持ってきて、その金銭的価値評価を行うというのは、あまり意味がないように感じています。

というのは、特にDCF法による場合は、事業の将来キャッシュを割引き、まず「事業価値」の評価を行った上で、それに寄与度を乗じることで、事業価値の一部分である「知財価値」を導出します。

M&Aにおいて重要となるのは全体としての「事業価値」であって、そのうちの「知財価値」がいくらかという値を出すことに、あまり意味は無さそう。
もちろん会計的には、M&A後のPPAにおいて分離識別できる知財権に価値を割り振る必要はあるけど、そんなもの適当でも構わない(と言ったら怒られるでしょうか)。

 

そうすると、知財の価値評価を行うことが必要で意味のある、重要な場面にはどのようなものがあるか。

一つは、知財権自体の取引。特許権の売買です。

そしてもう一つは、特許権侵害時の交渉・訴訟。ライセンス料の交渉や、和解金の交渉、そして訴訟における損害賠償額の算出です。

今後はこの辺、特に後者のほうに絞って、検討を進めてみようかなと考えています。

 

 - 知財会計

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