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IP Force × IPFbiz ~IP Forceの中の人と話してみた~

      2015/02/22

今年から企画している対談シリーズ「○○×IPFbiz」ですが、前回の企業法務戦士さんに引き続き、第2回は知財ポータルサイト「IP Force」を運営している(株)サイエンスインパクト代表取締役の成田さんとの対談が実現しました。

IP Forceは知財に関するニュースや、特許ランキング、法令集、知財求人など、知財に関する情報を統合して発信している知財のポータルサイトで、私も知財関連ニュースや動向をキャッチアップするために、毎朝チェックしています。
特許情報フェアでお会いしたのですが、非常に面白い方です。

 IP Force

IP Force運営者はどんな人?

安高:成田さん、お時間をいただきありがとうございます。
まず、IP Forceを運営している人が弁理士だと知って驚きました。スマートなサイトなので、IT系の企業が作っているんだろうと思っていましたよ。成田さんはいわゆる弁理士としての仕事、つまり出願業務なんかはしているんですか?

成田:ほとんどしていないです。自社のサービスに関する出願や、一部、後で話しますが名古屋大学と共同研究をしているので、それに関する自社の出願は自分で書いたりもしますが。

安高:いやー、色々やってるんですね。元々はどういうキャリアなんですか?

成田:元々は名古屋大学で素粒子物理の研究をしていました。

安高:素粒子物理!熱いですね。私も理学部物理出身なんで、素粒子には憧れましたよ。

成田:素粒子物理の実験が専門で、主にニュートリノ振動の研究をしていました。2003年に学位を取って、2006年までポスドクをやっていました。
2006年6月に大学を辞めて、7月から特許事務所で働き始めました。

安高:えらく唐突ですね。なぜ大学を辞められて、なんでまた特許事務所なんですか?

成田:ちょうど30歳になったときでもあって、何か新しいことをやってみたかったというのはありますね。もう少し正直に言うと、研究室の科研費が無くなりまして、それに伴って私の給料も、、という事情もありました。

安高:ちょうどポスドクのポスト・待遇が問題になっていた頃ですよね。今でも私の同級生で大学に残っている人は、進路に悩んでるみたいです。

成田:結局、研究をやる上で、国からの科研費頼りになってしまっているんです。そうすると、国の政策に左右されてしまう。素粒子の研究なんてすぐには産業に繋がらないので、厳しいものです。
でもそうした最先端の研究によって生まれたもの、例えばインターネット(WWW)ですが、あれは素粒子の研究から生まれたものなんですよね。これらのテクノロジーはいつか産業に活かされてお金を生むわけです。

安高:そうか、WWWの技術はCERN(欧州原子核研究機構)から生まれたんですっけ。

成田:自分たちの研究から生まれたテクノロジーでお金を生み出して、そのお金でまた研究をするというスキームを作り出したいという思いがありました。
そこでは特許が必要になることは分かっていたので、どうせなら特許のスキルが身につく仕事にしたほうがいいよなと思いました。それに、せっかくの転身の機会なので、普通に会社に勤めるよりは、ちょっと変わったことがしたかったのです。で、弁理士になろうと。もちろん資格だけ取っても実際の仕事が分からなければ意味がないので、特許事務所に行くことにしました。

安高:大きな決断ですね。私も物理をやっていて、日本の技術を産業に活かしたいと思って知財業界(特許庁)に入っているんで、多分気持ちは分かります。
特許事務所では普通に明細書を書いていたんですか?

成田:はい。入ったところは小さな特許事務所だったのですが、一つの案件にすごく時間をかける事務所だったんですよ。自分も、1件の実施例を書くのに1ヶ月かけたり。

安高:それは凄いw 完全に赤でしょ、それは。

成田:完全に赤ですよね。でも弁理士としての自分の腕に自信が持てるようにしたかったので、じっくり取り組ませてもらいました。そのときの事務所には感謝しています。

安高:で、特許事務所で働きながら弁理士資格を取られたんですね?

成田:はい。LECのWeb講座で勉強して、弁理士資格を取りました。2007年(平成19年)合格です。Web講座は倍速で見れるから、通学して受講するよりも楽なんですよね。
結局、特許事務所にいたのは3年半くらいで、2009年いっぱいまで働いて、2010年の1月に会社を作りました。わりとノープランで始めたんですけど、ソフトウェアを作る能力は持っていたから、まあなんとかなるだろうと思っていました。

研究⇒特許事務所⇒起業

安高:いや、これが凄いと思うんですが、特許事務所で経験積んで、スキルと弁理士資格を身に付けて、なんでソフトウェアの起業になるわけですか?普通に考えたら特許事務所としての独立でしょ。

成田:特許事務所も併設していますが、さきほどお話ししたような状況です。やっぱり会社をやりたいという思いがありました。

安高:そうか、テクノロジーで稼ぐという思いがあって、その手段のための知財だと言ってましたもんね。それにしても凄いなあ。いきなり会社にして、仕事はあったんですか?

成田:最初にやった仕事は、名古屋大学の先生からの依頼で、Webサーバのリプレイスですね。最初の仕事だったので今でも鮮明に覚えています。あとは、大学のeラーニング用のアカウントの利用料を回収するシステムを作ったりとか。苦しい時期もありましたが、友人に助けられながら、なんとかやってこれました。

 

IP Force誕生秘話

安高:なるほど、ソフトウェアの知識と人脈があれば、なんとかなるもんですね。で、IP Forceを作ったのはいつ頃からなんですか?

成田:IP Forceのプロジェクトが立ち上がったのは、2010年の11月ですね。

安高:会社を作ったその年の、年末頃ですか。きっかけとかあったんですか?

成田:ちょうどその頃、Twitterのユーザが増えている時期で、友人の会社がツイートをアーカイブして分析するという事業を始めたんですよ。それに影響を受けて、知財分野でも同じようなことができないかと思って。その年いっぱいくらいまで企画を練っていました。最終的にはTwitterとは全く関係なくなりましたけどねw そこから開発をはじめて、2011年の7月にリリースしました。

安高:企画が練られてからリリースまで、結構時間がかかっているんですね。何に苦労されたんですか?

成田:デザインですね。プログラムは書けるんですが、デザインはなかなか分からなくて。工藤さん(同席いただいたWebデザイナーさん)にデザインはお願いしました。

安高:確かに、デザインはセンスとかもありますしね。じゃあ開発部分は成田さん一人でやっていたんですか?

成田:ほぼ私がつくりましたが、名古屋大学でニュートリノの研究を一緒にやっていた准教授に一部手伝ってもらっていました。ちょうどその頃に、名古屋大学の研究グループでは「ニュートリノが光よりも速い」という一大事があったんですよ。

安高:ありましたね!そんなニュースが。話題になりましたよね。

成田:そんなことになっているとは私も知らなかったのですが、すごく忙しそうでした。その合間の隙間時間に、IP Forceの開発を手伝ってもらいました。大変なときに手伝ってくれて感謝しています。

安高:IP Forceは、リリース当初から今と同じような感じだったんですか?

成田:大枠はそうですね。あとはスマートフォン版をつくったり、法文集にメモ機能を付けたり、「知財周辺ニュース」と称して少し気楽に読めるニュースを掲載するようにしたり、特許ランキングから企業のニュースが見れるようにしたり、法文集をスマホアプリ化したり、特許事務所を紹介するCMS機能を提供したりと、開発は続けています。

 

IP Forceの収入?

安高:IP Forceの収入源は何になるんですか?ぶっちゃけ結構稼いでるんですか?

成田:収入源はバナー広告と知財の求人広告です。正直そんなに稼いでないです。

安高:Adsenseとかの広告は貼らないんですか?アクセス数多いんだから、適当に広告貼るだけで、結構稼げるでしょ。

成田:いや、広告は貼らないですね。ユーザに使いやすいようにしたいですし。

安高:えー、もったいないなー。アクセス数はどのくらいなんですか?

成田:一日のPVが1万弱で、UUが2500くらいですね。

安高:だったら右上に広告貼るだけで結構な収入になりますよ。ねえ?>工藤さん

工藤:そうですね、ちょっともったいないですよね。

成田:そうかー、ちょっと考えようかなw

安高:何か新しいビジネスモデルとか考えているんですか?

成田:考えていますが、今は言えませんw

安高:んー、聞いてみたい!知財の情報サイトだと、弁護士ドットコムの弁理士版みたいなものには期待したいなぁ。
今は、IP Forceに力を入れている感じですか?

 

最近の取り組み

成田:IP Forceには半分くらいで、今は名古屋大学との共同研究をやっているんですよ。((株)サイエンスインパクト 名古屋大学との共同研究契約の締結について

安高:共同研究?えっと、それでお金をもらってるんですか?

成田:いや、お金は払うほうです。大学のリソースを使うので。宇宙線を使って巨大構造物を非破壊検査するテクノロジーを開発しています。

安高:凄い、そんな研究開発の投資もしているんですね。面白すぎです。IP Forceの稼ぎも多くないということですが、大丈夫なんですか?

成田:いまのところ、主な収入源はソフトウェアの受託開発ですね。WEBのシステムが多いです。知人や、知人の紹介などから依頼を受けて開発しています。企画段階からやらせてもらうことが多いので、楽しくやっていますし、ちゃんと利益も出しています。IP Force自体では利益は上がっていませんが、会社全体としては黒字になっています。
実はこうしたソフトウェア受託開発の仕事をする上でも、IP Forceは大いに役に立っています。というのは、企画段階からやらせてもらう仕事は楽しいですし利益も出せるのですが、普通はそうした仕事を私の会社のような設立数年の小さな会社には任せてもらえません。ですが、IP Forceを企画段階から全て自力で作り上げた実績と、何年も運用してきた実績は、こういうことをやる力があるのだという何よりの証拠になります。いくら口で言っても単なる営業トークにしかなりませんが、実際にやっているものを見せれば、確かな証拠になります。IP Force自体は現状では赤字ですが、会社にとって金額では表せない利益を確実に生んでくれています。
受託開発の他には、自社製品として、知財業界向けにセキュリティの高い宅ファイル便のようなシステム(機密情報暗号化送信システムExFile)を開発して売っています。

安高:あーそれは面白い。特許事務所とか、中堅の企業知財部向けですね。
今後は成田さんはどんなことをやっていきたいんですか?

今後のビジョン

成田:IP Forceを始めた目的というか思いは2つあって、一つは知財業界をより活性化すること。業界の活性化によって活力がある人がもっと集まってもっと面白いことが出来たらいいなと。この業界はもともと地味な業界でした。もちろん特許事務所ごと企業ごと、あるいは個人ごとにそれぞれに色々な仕事があると思いますが、メインは寡黙なデスクワークで、黙々と仕事を進める。企業の知財部は事業を支える裏方さん。もちろん、そうした職人的な仕事もなくてはならない大切な仕事ですし、そうした仕事にしかない良さがあり、そうした仕事が好きな人も沢山いると思います。でも、特許事務所の方や企業の知財部の方とお話ししていると、どこかみんなもっと刺激的なこと、もっと面白いこと、もっとワクワクすることを求めているように感じるのです。自分も同じです。これから自分がどのようにそれを実現していくのか具体的ではっきりとしたアイデアがあるわけではないですが、業界を活性化して少しでも面白くしたりワクワクさせることに貢献できたら嬉しいですね。

もう一つは、知財業界をもっとカッコよくすること。だからスタイリッシュなサイトにしたいと思っていました。・・・ちょっと薄っぺらく聞こえてしまったかもしれませんが、業界がカッコよくあることは本当に大事だと思っています。もちろん、ほかにも大事なことは沢山ありますが、重要なファクターの一つには間違いないと思います。カッコいいから、自分もこの業界で働いてみたいと思う人が出てくる、この業界の仕事により誇りを持てるようになる、この業界の仕事にもっと高いレベルで貢献したいと思うようになる、それによってより優れた成果が生み出されるようになる、他の業界からも敬意をもって接してもらえるようになる。

安高:弁理士といっても、普通の人にはピンと来なかったりしますからね。

成田:便利屋さんですか?とかねw

安高:そうそう、知財業界のプレゼンス向上は、私も同じ思いがあります。

成田:そう、だからIP Forceのビジネスは引き続き拡大させながら、この目的を果たしていきたいと思っています。

安高:なるほどー。期待します!工藤さん、デザインについては何かありますか?

工藤:サイトを作って4年近くたつので、そろそろより最新ぽいデザインにリニューアルしたいなと思いますね。

安高:おお、それは期待します。
最後に、成田さんからユーザの皆さんに向けて一言ありますか?告知とかも。

成田:そうですね、まず、収益のことは置いておいて、沢山の人に使ってもらえていることが純粋に嬉しいです。苦労して作った甲斐がありました。すべてのユーザさんにお礼を言いたいです。ありがとうございます。それから、たまに要望をもらうことがあるんですが、要望があったら遠慮せずにもっと気楽に言ってもらえればと思います。あ、あと新機能として、今年の4月から特許明細書の全文を見れるようにする予定ですので、楽しみにしていてください。

安高:おお、それは凄い。特許のデータを買うんですか?

成田:ええ、DVDでデータを買います。これで、例えば特許のランキングとか企業のデータから、個別の特許の全文を見れるようにする予定です。

安高:IPDLに固定リンクがないんで、ニュースに紐付けて特許を見て欲しいときに、Twitterとかに貼り付けられるURLができるのはいいですね。多分、特許データを買うといっても、これから検索システムにするのはあんまり筋が良くないと思うんですよ。

成田:私もそう思います。あくまでも知財に慣れていない人、たとえば新人のエンジニアとか、そういった人向けの知財への入り口になればと思いますね。他にも、たまに出版社や新聞社、あとは投資会社などから問い合わせがあるのですが、知財業界以外のこうした一般の人に向けて知財を啓蒙する点でも、貢献していきたいと思います。

それから、さきほどお話しした「宇宙線を使った非破壊検査」の事業ですが、こちらも知財をしっかり活用していきます。こうした革新的な事業にもやっぱり知財は重要なんだな、ということを実績をもって示せるようにしたいです。会社の方針として、IP Force以外の事業でも知財のプレゼンスを向上させることには必ず貢献していきたいと考えています。私自身、知財業界のことを全て知っているわけではありませんし、企業知財の経験があるわけでもありませんので、これからも知財に携わる沢山の人と知り合って、色々なことを教えてもらいながら、前進していきたいです。これまでも業界の沢山の人に支援してもらいましたが、これからもご理解とご支援を頂ければと思います。

安高:ぜひ期待します! 対談の機会を頂いて、ありがとうございました!

 

非常にエネルギッシュで魅力と行動力のある方でした。
今後のIP Forceに益々期待ですね。

 - 知財戦略

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