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平塚三好×IPFbiz ~東京理科大専門職大学院知財戦略専攻MIP~

      2015/03/27

対談シリーズ第14回目は、東京理科大学専門職大学院(MIP)知的財産戦略専攻、教授の平塚三好先生です。

前回の湯浅弁理士からご紹介いただきました。

平塚先生は、元々は理系の大学院を出た後、特許ビジネスの道を目指して商社、特許事務所を経て米国フランクリン・ピアース・ロー・センターにて知的財産修士(US MIP)課程を修了。その後日本へ戻り、東京理科大MIPの創設から携わっています。

特許業界を目指した理由や、紆余曲折を経て大学教授になるまでの経歴を中心に、お話を伺いました。

hiratsukam

特許業界を目指した理由

安高:平塚先生、よろしくお願いします。現在の研究内容なども興味があるのですが、まずは平塚先生がどのようにして現状に至ったかについてお話を聞ければと思います。元々は物理の研究をされていたんですよね。

平塚:はい、東京理科大の修士で応用物理の研究をしていました。ドクターまで残ってくれという声も頂いていたのですが、いったん研究は切りたいなと思いまして。というのも、これからの日本は特許が大事だなと考えたんですよ。

安高:20年以上前のことですよね。特許が大事だと思われた理由は?

平塚:当時は、米国の軍事がらみの、ニューラルネットワークの研究をしていて、その時に特許が絡んできていたんですよね。
またその当時、バブルがはじける直前で、景気は良かったんですが、アメリカ企業から日本企業が特許で訴えられて負け続けているという状況でした。

安高:そうか、そういう時期だったんですね。

平塚:当時は自動車も電機も、日本企業の調子は凄く良かったんですよね。それでレーガンがプロパテント政策を出して。アメリカからしてみれば、日本企業はアメリカの発明を盗んで物を輸出して、米国経済をめちゃくちゃにしてくれたと激怒していたわけです。それで特許で反撃するという動きでした。

周りの同期は、大手の一流のメーカーに就職していったのですが、今の日本メーカーはこんなに特許で訴えられていて、将来ヤバいんじゃないかと。あとは皆と同じことをしていても、オンリーワンになれないなと思って。
それで特許をやりたいと言ったら、就職担当の先生から、なんでそんな日陰の仕事をやるの?と驚かれましたね。「平塚がドクターも蹴っておかしなところに行く」と(笑

安高:当時は特許部というと、そういうイメージですよね。

平塚:でも私は、特許という仕事がこれから重要になるなと。また技術と法律、あとは国際的なことを知っている人間がこれから重要になるなと感じていました。
「知財部は産業の自衛隊だ」とよく言っているんですが。知財部は平時においてはコストセンターになってしまう。じゃあ無くしたらどうなるかと言うと、一気に特許侵害で攻め込まれてしまって、守ることもできないですよね。バブルの時代にその重要性に気づく人は少なかったですが。

安高:それで特許業界の、どういう所を目指したんですか?

平塚:特許事務所とかで特許の仕事を直接やるより、商社で特許の仕事をやったほうがいいと思ったんですよ。そこで、いくつかの商社を受けて、そこで特許ビジネスの必要性についてプレゼンしました。
今考えたら、パテントトロールのようなビジネスモデルになっちゃうんですが、土地を転がして儲けるように、我が国は科学技術立国なんだから、科学技術の成果をお金に換えるのに物ではなく知財をお金に換えるべきだと。不動産の債権だけでなく、科学技術の債権である特許を世界に売り、その特許を尖兵にして、“もの”を売ったり、現地メーカを創るビジネスに繋げられます。次の商社の新規ビジネスは知的財産が国策に合いますよと。

安高:就活生が面接で、新しいビジネスの提案をするというのは面白いですね。

平塚:当時はそういう人は少なかったでしょうね。黙っていても入れるような時代でしたから。しかし、多くの商社はその話を理解してくれませんでした。やはり土地や建物で儲かっていた時期でしたから。
「面白いね」といって、内定はいくつか貰いましたが、特許ビジネスをやらせてもらえるわけではないなと。その中で唯一やらせてくれそうだったのが、日立ハイテクノロジーズ(旧日製産業)という商社で、特許の話を理解してくれたので、そこに入りました。

安高:日立ハイテクは、メーカーかと思っていました。結構尖った特許を持っているイメージです。

平塚:メーカーの側面もありますが、元々は日立グループの商社ですね。そこでまずはビジネス基礎の経験を積もうと思いました。1年は基礎をやって、その後特許ビジネスをやれればと思っていたのですが、そこでバブルが弾けたんですよね。

安高:おお、ちょうどそんな時期でしたか。

平塚:それで、特許ビジネスとか新しいことをやる場合ではなくなったんですよ。
だから1年で見切りをつけて辞めました。そのときは、景気が回復するまで待ってくれと言われたんですが、待つという選択をしていたら、現在までそんなチャンスは来なかったかもしれませんね。景気は回復していないですから(笑

 

特許事務所から海外ロースクールへ

平塚:その後、一色国際特許事務所に入って、そこでしばらく特許実務をやっていたのですが、所長から米国のフランクリン・ピアース・ロー・センターへMIPコースで行かないかと言われて。知財のロースクールランキングの1位だったところです。

安高:それは凄いチャンスですね。

平塚:でも私はそんなに行きたくなかったんですよ、英語も得意じゃないし(笑
それでも是非と言われたので、じゃあ頑張ろうかと。
向こうのロースクールは、本当に落とすので、かなりハードでしたよ。そこでなんとかMIPを修了しました。

安高:それで特許事務所に戻ったんですか?

平塚:修了後、半年ほど現地の法律事務所でインターンをしました。
実はその時に、現地の法律事務所でトロールの手先を知らずにしていたんですよ。帰ってきてから、師匠であるヘンリー幸田先生に、こんな面白いビジネスモデルがありましたよと言ったら、大層怒られました。当時はパテントトロールなんて言葉もなかったけど、「それはねえ、パテントマフィアだよ」と叱られて。
幸田先生の本は読んでいたんですが、現地の人に命令されてやっているので、実態が分からなくなっていたんですよ。

安高:ある意味では貴重な経験ですね。

平塚:そんなこんなで、半年の法律事務所の修行を経て、日本に戻ってきました。
一色国際特許事務所に恩返しをしないといけないと思い、一生懸命仕事して、結構多くのクライアントを引っ張ってきましたよ。

 

MIPの設立

安高:MIPに関わるようになったきっかけは何だったのですか?

平塚: 日本に戻って3年くらいしたところで、東京理科大の、私が学生だった時の就職担当から電話がかかってきたんですよ。私がドクターも蹴って特許業界に行ったので、印象に残っていたんでしょうね。米国のロースクールで知財の修士を出たらしいじゃないか、ちょっと話をしようと。
あまり知らずに行ったら、理事長室に通されて。あのときの就職担当の先生が、なんと理事長になっていたんですね。

安高:それは凄い縁ですね。

平塚:そこで、知財の専門職大学院を作りたいと思っているから手伝ってくれと。当時の小泉政権の背景で、知財の専門職大学院を作ろうということで、理科大は知財関係者が多いし特徴を出したいから、手を上げようと思うけど知財の大学院をどのように作ったらいいか分からないから、MIPを出た私に手伝ってくれという話でした。
理事長は、当時学生だった私が特許をやると言っていた意味がようやく分かったと(笑

でもやはり、特許事務所にはしっかり恩返しをしないといけないから、夕方だけならお手伝いはできるかもしれないとお答えしたのですが。事務所に戻ると上同士で話が済んでいて、引き抜かれたんですね(笑

安高:なるどほ、そういうきっかけがあったんですね。

平塚:縁ということで言えば、元々修士の時に、ドクターになれと声がかかるのは、教員になれという話なんですよ。だから元々縁はあって、それに従っていたら真っ直ぐ教授になったと思うんですよね。それが紆余曲折あって、結局大学に戻ってきたと。

安高:でもずっと大学に居たよりは、様々な経験が詰めて戻ってきたのは良かったですよね。

平塚:それはその通りですね。
商社にいて、ビジネスが分かった上で特許の実務をやっての教授なので、純粋培養の方よりは実務を踏まえたことが出来ているとは思います。純粋培養の方も、ある意味の天才を作るうえで、もちろん必要だと思いますけど。

 

平塚研の活動

安高:それで、理科大ではどのようなことをされてきたんですか?

平塚:創立の段階から、携わりました。創立に必要な申請書類を書いたりとか。また東京理科大の知財本部やTLOにも入って活動をしていきました。

安高:現在の平塚研では、どのようなテーマの研究をされているんですか?

平塚:各学生がテーマを持ち込んできますから、私は基本的に彼らのサポートですよ。自分でやっている研究テーマと言えば、トロールくらいです。

安高:私は文系・法学系の研究室に馴染みがないのですが、そういう感じなんですね。

平塚:特にMIPの場合は社会人学生が多いですし、今年の平塚研なんかは、本当に各分野の専門家が集まっていますよ。知財以外の専門家です。彼らが自分で研究したいことを持って入ってきますので。
特に企業から来られる方は、具体的な課題を持ってくるのですが、自社ではどうしようもない無理難題が多いですね。でも大学に持ってきてもらうと、他分野の専門家とアライアンスを組むなり、新しい解決法が見つかっていきます。

安高:大学という場の良いところですね。

平塚:知財というのはどうしても蛸壺になりがちな分野なので、別の分野の専門家からの知財への指摘は有益ですよ。ああ、知財ってこういう見方があったんだなと、気づかされます。

 


平塚先生、ありがとうございました。本当はもっと刺激的で面白い話も多く聞けたのですが、とてもここには書けないような内容でしたので、残念ながら割愛。
平塚研は様々な分野の専門家が集まっていて、本当に面白そうなところでした。話が盛り上がって、なんと平塚研のアドバイザーになってくれという嬉しいお話も頂いたので、今後も絡んでいけたらと思います。定例にも参加させてもらいます。この辺の話もここで詳しく書けないのが残念。
商社や特許事務所の経験もある、変わった(?)大学教授なので、話も面白いです。社会人で知財を目指そうという方には、平塚研は良い選択肢かと。

 - 特許

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