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フェアユースについてもう一度考える (日本におけるフェアユースの必要性)

   

前編の続きから

日本でのフェアユースの必要性

日本版フェアユースの議論がされ、一応の立法に至った後も、フェアユース的な規定が望まれる声はなくなっていない。むしろ、仕上がった条文を見て個別の権利制限規定に失望したことで、より強い声が上がっているように感じる。


では、なぜ日本でフェアユース的な規定の導入が望まれるのか。フェアユースのメリットには大きく下記のようなものが挙げられる。

フェアユースのメリット

フェアユースが必要とされる理由。

一つは、立法は完全なものたりえないという点。
つまり、個別の制限規定に該当しない利用行為であっても、社会的に公正な利用行為であり許容されるべきと認知されるものは存在する。
技術が進展し、著作物の利用形態も様々となっている今日では、権利制限すべき利用形態を一つ一つ法律で定義することは困難である。
ガチガチに要件をかためた個別規定ではカバーしきれない範囲が存在するため、一般的・包括的な規定が望まれるのである。

もう一つは、立法では時代の変化に対応できないという点。
これまで日本では、時代の変化により個別の権利制限規定が不十分となれば、その都度立法手続きがされてきた。
しかし、立法には相当の時間がかかるゆえ、問題が露見してからそれが法律でカバーされるまでには一定の期間があいてしまう。そして現状の法律では司法の解釈による裁量範囲は狭く、本来白と判断されるべき事象がその期間に問題となれば黒と判断されかねない。その期間に司法で最終判断までされるものは少ないかもしれないが、本質的な問題は、立法でカバーされるまでは法的リスクが高いため事業の萎縮が起こってしまうことである。
また、厳しい要件が課される個別の制限規定では、時代の変化に追いつけず立法された瞬間に時代遅れとなってしまいかねない。検索エンジンの制限規定などはまさにその問題が指摘されている。

さらには、権利制限が問題となる事案には、例えばパロディのような、利用形態が極めて多様で、個別事情を考慮して利害を調整しつつ侵害判断を行ったほうが妥当な紛争解決がもたらせれるものがある。
このようなグレー領域の事例では、予め法律で権利制限の要件を固めてしまうよりは、司法の裁量範囲に判断を委ねたほうが妥当な結論が得やすい。しかし、現在の法体系では司法による解釈の猶予が少なく、フェアユースのような柔軟な運用が図れる規定が望まれる。

付け加えると、条文がシンプルになるというメリットも存在する。瑣末なことにも思えるが、法律は本来国民皆が理解すべきものであるところ、最近の47条シリーズの長い条文を理解しきれる者は少ないだろう。

フェアユースのデメリット

一方でフェアユース導入に反対する立場は、下記のようなデメリットを上げる。

ひとつは、予見性の低さである。つまりフェアユースは厳密な要件を法定化せずに、判断指針のみを設けて司法の判断に委ねるものであるため、事前にある事例がフェアユースに当たるのか否か判断しにくいという問題がある。

また、フェアユースは米国の判例主義という独自の法文化で育ったものであり、これを日本にそのまま導入するのは難しいという意見もある。なぜ難しいかというのは、一つ目のデメリットにも繋がってくる。

さらに、これはフェアユースのデメリットというわけではないが、フェアユースが導入されたとして、日本企業がそれを使いこなせないのではないか、結局明確に判断されない領域のリスクを取るのは難しいのではないかという意見もある。

いずれも結局は、予見性の低さが根本的な問題となっている。

再反論

上記のデメリットは、一見するともっともな意見に思われるが、果たして本当にそうだろうか。

まず柔軟な規定がない現状では、司法では妥当な法判断をするために法理の創造が行われている。これはかえって予測可能性が失われているとも捉えられる。

また、十分に理解する必要があるのは、フェアユースと個別の制限規定とは、相反する選択的な存在ではないということだ。

例えば韓国では、フェアユース規定を導入した後も、個別の権利制限規定の立法を行っている。
これは、個別規定の導入が間に合う前であってもフェアユースにより合法と判断され得るが、確認的に個別の規定も充実させていっているものと考えられる。
また欧州著作権コードや中国の改正案を見ると、基本は個別の制限規定でカバーしながら、受け皿規定として包括的な規定を用意している。

つまり、フェアユース規定によって一定の柔軟性を保ちながら、予見性を高めるために一部の事例については個別の規定を設けるという選択肢が可能となるのだ。
これによって、フェアユースのメリットを取り入れながら、予見性というデメリットを回避することができる。

もちろん個別規定を合わせて設けても、司法の判断を経ないと確実な予見が不可能な領域も存在する。しかし、そのようなグレー領域こそ、法律で厳密な要件を定めずに、司法の柔軟な判断が望まれるところであり、これもフェアユースのメリットに他ならない。


諸外国を見ても、これまでの立法経緯に合わせて、各国独自のフェアユース規定が導入されてきている。このような導入が可能である以上、米国文化をそのまま取り入れるのは不可能という意見は当たらないだろう。

 

フェアユースの立法事実


以上のような理由から、フェアユース的な規定は日本にも導入すべきというのが私個人の意見である。

しかし立法をするには、具体的な立法事実が求められる。
今般の小委員会で軽くあしなわれたのも、立法事実の出し方が上手くなかったと言われている。

つまり、現状こんなサービスが問題になり得るというサービス事例を立法事実として挙げても、個別具体的に検討され、これは第何条でOKなはず、これは契約でいける、それならこの個別規定だけ改正しますか?となってしまい、フェアユースのような一般規定には繋がらない。

なぜ個別規定の拡充では駄目なのか、なぜ一般規定が必要なのかが分かる立法事実が必要となる。

そうすると、現在の問題よりむしろ、過去の問題、将来の問題を挙げたほうが説得力があるように思われる。

過去に法上の問題が露呈してから立法によるカバーがされるまで、どれだけの時間と行政コストがかかってきたのか。
例えば検索エンジンというものが世に広まって、実際に立法による手当てがされるまでにどれだけの期間があいていたのかという問題。そして出来上がった条文も解釈によってはプッシュ型検索に対応できないとも解され、すぐに時代遅れになってしまっている問題もある。

また将来の問題。将来どのような問題が生じるかを具体的に挙げることは不可能であるが、ビッグデータの解析や検索システムの進展などで、現行法でカバーしきれない事象が生じるであろうことは容易に予測できる。
これらの問題が生じたとき(既に生じているかもしれないが)、そのたびに従来どおり個別の制限規定を加えていくのが生産的なのかどうか。
予め柔軟な規定を設けておくことで、これらの問題が解決されるのではないだろうか。

田中先生によれば、フェアユース規定がコンテンツ産業にプラスに働くことも研究されている。

個別のサービス事例が白か黒かという立法事実よりは、むしろ産業政策的な観点から、将来のコンテンツ産業とICT産業を発展させるために、また過去の失敗を繰り返さないために、フェアユースのような柔軟な規定が望まれるといった主張のほうが筋が良いように思われる。

著作権本

目指すべき条文イメージ

それでは実際にどのような法規定の導入が望まれるのか。
具体的なイメージ無く、必要性の声だけを上げても議論はできない。

前編で紹介した他国の立法例を参考にすると、下記のような条文イメージが考えられる。


①現在の細かい個別規定を、米国型のフェアユース規定で置き換えてしまう。米国やイスラエル、フィリピンのように。
⇒これが良いと思っている人はほとんどいないだろう。

②現在の個別制限規定を残しつつ、その他の公正利用についても著作物の利用可能とする包括的なフェアユース規定を設ける。韓国やシンガポールのように。
⇒これは取り得る。

③特定の目的に絞りながら、公正利用のフェアディーリング規定を設ける、そこでフェアユース的な判断要素を採用する。香港やニュージーランドのように。
⇒これもありだが、既存の条文に手をいれる必要が生じる可能性がある。

④現状の個別制限規定と同視し得る著作物の利用で、公正なものは利用可能とする受け皿規定を設ける。欧州著作権コードのように。
⇒これも妥当。

⑤2011年の議論を活かして、いわゆるC類型の知覚を通じて著作物を享受しない利用形態を許容する規定を設ける。
⇒旧来のC類型だけでは狭いので、C類型の要素と、その他要素を総合判断する作りにする必要がある。


②、④、⑤あたりが妥当かと思われる。

特に④の欧州著作権コードの作りを参考にするのは、有用に思える。
あるいは、②と⑤を組み合わせて、C類型の要素とスリーステップテストの要素を組み合わせたものを総合判断して公正な利用と判断されるものは許容するなど。

いずれにしても、これらは、フェアユースという規定をドンと設けるというよりは、既存の規定を活かしながら柔軟な受け皿規定を設けておくというイメージに近い。

つまり、これを設けたからといって、現状黒と判断されるものが直ちに白に変わるような性格のものでもない。
そういう意味でも、その立法事実として現在問題となるサービスを挙げるのが適切でないことが分かるだろう。あくまでも将来の担保のための規定である。

 

最後に、思い切って、条文案を書いてみる。

47条の11
30条から47条の10により許容される著作物の利用と同視し得る利用その他の著作物の公正な利用は、著作権を侵害しないものとする。著作物の利用が公正か否かの判断において考慮されるべき要素には、以下のものが含まれる。
(1)利用の目的、性質、著作物の享受の態様
(2)利用された著作物の性質
(3)利用された著作物全体との関係における利用された部分の量と質
(4)利用行為が著作物の潜在的市場や価値に与える影響

うーん、センス無いですね。。

 - 著作権

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