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知財ビジネス最前線 クラウドソーシングと特許調査

   

クラウドソーシング市場の拡大

クラウドソーシングがますます身近なものとなり、様々な仕事の受発注の形が変わろうとしている。

クラウドソーシングとは、クラウド(Crowd:群衆)に対してソーシング(Sourcing:委託)を行う、今まで企業間1対1で行っていた業務委託を従来よりも細かい単位で、「インターネットの向こう側にいる無数のスキルを持つ人々のだれかに外注をする」というものだ。

クラウドソーシング

出典:総務省HP

日本におけるクラウドソーシングの利用は2009年頃から本格化したと言われており、矢野経済研究所の調査によると2012年時点でその市場規模は100億円を超えている。国内の市場規模はその後右肩上がりで成長を続け、2017年度には1,473.8億円規模に達する見込みであり、クラウドソーシングの市場活性化に伴いサービス事業者の参画も続いており、既に数十社がサービスを提供している状態となっている。

クラウドソーシング市場

出典:矢野経済研究所

タスクの種類 特化型へ

いわゆる「クラウドソーシング」というと、文字の入力やちょっとした集計作業、ライティングなど、誰でも簡単に出来るが自分でやるのは面倒、といった作業を、ネット上の「誰か」にやってもらうようなイメージが強かった。
これは「タスク形式」と呼ばれるものであり、特殊なスキルが求められず短期・小規模という特徴を持つ。
この場合のクラウドソーシングのメリットは、コストの低減と、リソースの柔軟化である。

しかし最近は依頼内容も高度化してきており、デザイン制作のようなスキルを必要とする依頼内容が増えてきているようだ。
「コンペ形式」は、複数の受注者がデザイン案やアイデアを提案し、採用されたものに報酬が支払われる。「プロジェクト形式」は、受発注者間で契約条件を交渉する。
これらのクラウドソーシングは、スキルが求められるタスク内容であり、多数の受注者候補からより質が高いものを選べるというメリットがある。

つまり、「誰に」お願いするかは重要ではないが、とにかく「良いもの」を作ってほしいという場面にも、クラウドソーシングが活用されるということだ。

そしてタスクの高度化が進み、クラウドソーシング事業者が増える中、差別化を図るためにもクラウドソーシングサービスは「特化型」へと変化しつつある。

これまで一部の専門家が担ってきた特定のスキルを必要とする業界にも、クラウドソーシングの波が押し寄せ、受発注の形態が変化する可能性がある。
これは専門性の高いと言われる「知財」の分野においても例外ではない。

 

海外におけるクラウドソーシング特許調査

日本ではあまり知られていないが、実は海外では、数年前からクラウドソーシングを利用した特許調査サービスは実現している。

その一例が、米国の「Article One」だ。
article1
クラウドソーシングによる特許調査サービスであり、主に無効調査などが依頼されている。クラウドソーシングというよりは、懸賞金ハンターに近いかもしれない。

依頼する企業はタスクと懸賞金を設定し、特定の特許を無効にできるような資料を見つけた人に懸賞金を支払う。
article2
受注者に支払う懸賞金とは別に、プラットフォームの利用料をその数倍支払う必要があるため、通常の無効調査と比べて決してコストが低いわけではない。
しかし3万人を超える調査員が登録されており、その国籍や属性も様々であるため、通常であれば調査できないようなマイナー資料が発見されることが期待される。

発注をする企業の立場からすれば、クラウドソーシングに特許調査を出すには、その機密性が気になる。しかし無効調査ということであれば、外に出す必要のある情報は他社の特許番号のみであり、自社名を確実に伏せることができれば、許容できる範囲なのであろう。


他にも、patexiaという同じようなクラウドソーシングによる特許調査・特許管理サービスもある。
ドイツにもBlue Patentという同様のサービスがあり、エストニアにもCrowdIPR(現Deltasight)があった。

 

知財分野のクラウドソーシング 日本

日本でも、クラウドワークスやランサーズで検索すると、ごくごく稀に、商標出願代行の依頼や、調査系業務が見つかることもある。
しかし、その特殊性からか、件数は極めて少ない。


昨年にはクラウドソーシング事業のリアルワールドが、知財コンサルのマークアイを買収した。
クラウドソーシング化に伴う知的財産分野における収益拡大と利益率改善」を狙いとしているが、具体的にどのようなサービスが展開されるのかはまだ分からない。

また、クラウドソーシング事業のランサーズは、JAZY特許事務所と連携して、「商標チェック・登録サービス」を提供している。
クラウドソーシングが数多く利用されているのは、ロゴなどのデザイン制作であるが、このデザイン制作依頼と連携して、商標が取れるかどうかのチェックと、取れそうな場合に商標出願までセットで依頼できるというものだ。

効果的な連携だと感心するが、これは知財に関するクラウドソーシングというわけではない。

バックオフィスのクラウドソーシングサービスである「Gozal」もある。
知財を含めたバックオフィス系全般をサポートしているが、これは依頼内容に応じて複数の専門家から届く提案のうち、最適なものを選び発注するという形である。クラウドソーシングというよりは、弁護士ドットコムのような、見積もりサービスに近いように感じる。

Bizer」もバックオフィスのクラウドソーシングとも言えるが、月額2,980円で会社運営に関するサポートを各専門家から受けることができるというサービス内容だ。

これらは、知財に関するクラウドソーシングサービスだが、Article Oneのようなコンテスト形式で多様なクラウドに依頼する形とは異なる。

 

IP Quest

そして、2015年2月に、「IP Quest」という企業が設立された。
ipq

「世界中の調査員とつながる特許調査プラットフォーム」を標榜する、クラウドソーシング型特許調査サービスである。

IP Questでは、コンテスト方式により、主に特許無効資料調査が取り扱われる見込みとなっている。

特許を無効にしたいというニーズを抱える企業が課題と懸賞金を設定し、登録している調査専門家が応募して、上位の成果物に対して懸賞金が支払われる流れだ。

世界中の多様な調査専門家が調査を実施することで、非特許文献やマイナー国の資料など、通常ではアクセスしにくい資料の調査がされ高品質な成果物が出てくることが期待される。

日本においては先進的なサービスだが、近いモデルのArticle Oneなどと比べると後発ということになる。

 

「日本の特許文献、非特許文献には高い価値がある。」
代表取締役の太田氏はそう語る。日本の高い技術力は然ることながら、かつて特許文献は6割を日本語文献が占めていた時代があり、2000年代前半の文献はWeb上ではなかなか見つからないという状況のようだ。特に無効調査の対象として有用であると考えられる日本語文献を調査できる登録調査員を集めることで、海外企業からの調査ニーズを発掘することが狙いだ。


現在は調査専門家を募集している状態ということだが、プラットフォームの拡大には、調査専門家の登録とクライアントからの案件の両輪が必要となる。
様々な属性の調査専門家の登録を集め、プラットフォームの価値を高めることでクライアントからの案件を呼び込み、魅力的な案件があることで調査専門家の登録を拡大する。

日本でもこのようなサービスが成功するのか、そして既存の知財業界の形が変わることになるのか、今後も注目していきたい。

 - 特許

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