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パンドラの匣

   


パンドラの匣 (新潮文庫)
太宰 治
新潮社
1973-11-01



すばらしい作品だ。 


中期から後期にかけての作品。一応中期にカテゴライズされるのか。 
健康的な面と、太宰らしさが、両方とも良く出ている。 

特に、正義と微笑は、太宰の中でも傑作の一つだと思う。 
人間失格の次に、ずば抜けて好きになった。 

実在の人物の実際の日記をモデルにしていると聞いて、 
正直驚いた。 
作中の主人公は、まさに太宰治そのものという人物だったから。 
ぼんぼんが学問に挫折して、俳優を目指す。 
「かれは、人を喜ばせるのが、何よりも好きであった!」 
太宰が作家にならなかったら、こういう道もあったのかもしれない。 

また、名言(というか私の好きな言葉)が特に多い作品でもあった。 


もう君たちとは逢えねえかも知れないけど、お互いに、これから、うんと勉強しよう。 
勉強というものは、いいものだ。 
・・・ 
日常の生活に直接役に立たないような勉強こそ、将来、君たちの人格を完成させるのだ。 
何も自分の知識を誇る必要はない。勉強して、それから、けろりと忘れてもいいんだ。 
覚えるということが大事なのではなくて、 
大事なのは、カルチベートされるということなんだ。 
カルチュアというのは、公式や単語をたくさん暗記していることではなくて、心を広く持つということなんだ。 
つまり、愛するということを知ることだ。 
学生時代に不勉強だった人は、社会に出てからも、かならずむごいエゴイストだ。 
学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。 
けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものなんだ。 
これだ。これが貴いのだ。勉強しなければいかん。 
そうして、その学問を、生活に無理に役立てようとあせってはいかん。ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ! これだけだ。俺の言いたいのは。 


床屋で、ドボルジャークの「新世界」を聞く。ラジオ放送である。好きな曲なんだけれど、どうしても、気持にはいって来ない。大きな、櫓太鼓みたいなものを、めった矢鱈に打ちならすような音楽でもあったら、いまの僕のいらいらした気持にぴったり来るのかも知れない。けれども、そんな音楽は、世界中を捜してもないだろう。 
(ロックです) 

・・・しばらく考えてから、やおら質問。 
「役者の、使命は、何か!」愚問なり。おどろいた。・・・ 
「それは、人間がどんな使命を持って生れたか、というような質問と同じ事で、まことしやかな、いつわりの返答は、いくらでも言えるのですが、僕は、その使命は、まだわかりませんと答えたいのです。」 
・・・「役者の使命はね、外に向っては民衆の教化、内に於いては集団生活の模範的実践。そうじゃないかね。」 
僕は、あきれた。落第したほうが、むしろ名誉だと思った。 
「それは、役者に限らず、教化団体の人なら誰でも心掛けていなければならぬ事で、だから僕がさっき言ったように、そんな立派そうな抽象的な言葉は、本当に、いくらでも言えるんです。そうしてそれは、みんなうそです。」 


「・・・日本に於いて今さら昨日の軍閥官僚を攻撃したって、それはもう自由思想ではない。便乗思想である。真の自由思想家なら、いまこそ何を置いても叫ばなければならぬ事がある。」 
「な、なんですか?何を叫んだらいいのです。」かっぽれは、あわてふためいて質問した。 
「わかっているじゃないか。」と言って、越後獅子はきちんと正座し、「天皇陛下万歳!この叫びだ。昨日までは古かった。しかし、今日に於いてはもっとも新しい自由思想だ。十年前の自由と、今日の自由とその内容が違うとはこの事だ。・・ 


この道は、どこへつづいているのか。それは、伸びていく植物の蔓に聞いたほうがよい。 蔓は答えるだろう。 
「私はなんにも知りません。しかし、伸びていく方向に陽が当るようです。」 
さようなら。 

 - 書評

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